ページTOPへ

国循サザン事件―0.1%の真実―

国循官製談合事件の容疑者として起訴された桑田成規さんを支援します

控訴審第2回公判期日後の記者会見内容(2019年4月16日)

全文をPDFでお読みになりたい方はこちら

drive.google.com

【冒頭説明】

郷原

国立循環器病研究センターをめぐる,いわゆる官製談合防止法違反事件,本日開かれた控訴審第2回公判で弁論が行われ,結審しました。判決は,7月30日の予定です。
原審で調べられた証拠だけに基づいて控訴審が判断するという場合には,弁論は開かれないわけです。今回は,控訴審で,上智大学法科大学院・楠茂樹教授の意見書を事実取調請求,つまり,証拠請求をして採用されておりまして,その意見書に基づく弁論をするということが,今日の弁論のなかで一番中心的なテーマでした。


弁論のなかでも述べましたように,この事件というのは官製談合防止法違反という,やや特殊な法律の罰則が適用された事例でして,構成要件も「公の入札等の公正を害すべき行為」ということで,非常に抽象的で,なにが犯罪にあたるのかということも,なかなかそれだけではわかりにくい。この法律の立法の経緯,趣旨,保護法益などに照らして適切な解釈を行っていかなければいけませんし,しかも,重要なことは,このような事件で,罰則適用が行われると,すべての公共調達に重大な影響が生じるわけです。そこで示された判断というのが,すべての公共調達における官製談合防止法違反の罰則適用に関係してくることになります。ということもあって,われわれは,この事件においては,公共調達法制の第一人者であって,ほぼ唯一の専門家と言ってよい楠教授の意見書というのを非常に重要なものと位置づけてきました。


楠意見書ではこの法律の立法の経緯,保護法益,解釈等に関して詳細に論じており,本件で問題となる法令解釈上の論点についても詳細に理由が述べられて,いろいろな論証が行われています。今回のわれわれ弁護人側の主張は,この楠意見書がベースになったものと考えてよいものです。


この楠意見書の取調請求に対して,検察官は,当初,答弁書で,不同意・不必要と言っていました。われわれは,不同意はともかくとして,不必要とはどういうことかと思いました。本件についてこれほど重要な証拠が,関連性がないとか,全然取り調べが必要ないとかいうことはおよそ考えられないわけで,しかも,楠教授は,検察官である法務省の局付が書いた論文や,検察官が大コンメンタールに書いた見解などに基づいて,通説・判例の見解に基づいて論述しているわけですから,少なくともその部分を同意しないなどということはありえないわけです。そこで,弁護人側からその点について意見書で指摘したところ,検察官は,一転して,同意すると。全部同意するけれども,内容的な面については信用性を争う,その趣旨は,「見解を異にする」という意味だと言ったわけです。われわれは,見解を異にするのであれば,その見解を明らかにしてもらえないと,楠意見書に基づく弁論ができない,と再三にわたって,検察官に具体的な意見を述べるように要求をしてきました。ところが検察官は一切それに応じない。そこで,弁護人側から楠教授に,急遽,再度のお願いをしたわけです。それが,今日,取り調べられた楠補充意見書です。


この楠補充意見書では,検察官が見解を異にする,異にすると言いながら,全然その内容を明らかにしないで,あたかも本件ではそれほど楠意見書は重要でないかのように装っているので,そうではないということ,そして,原判決と検察官の法令解釈と,楠意見書の見解はこんなに違っているのに,それについて検察官がなんら具体的な見解も示さないというのは,むしろ,検察官自身が反論を放棄したことになるのではないか,ということを明らかにするために,楠教授に,原判決と検察官の意見書などを送って,どこが同じでどこが違うのかということについて,きちんと書いてもらいました。それが,今日,弁論でも述べたように,基本論のところは同じ,これは当たり前です。通説・判例の見解に沿ってやっているわけですから。ところが,本件に対する当てはめのところが全然違うと。楠意見書の見解によれば,少なくとも桑田さんの行為について,ごくごく一部が形式的に犯罪にあたるという可能性は否定できないけれども,全体としては無罪。そしてごくごく一部犯罪にあたるところも,ほとんどそのようなものは刑事事件として取り上げられる余地のない形式的な問題だということを楠意見書は言っているわけです。


その一方で,原判決とか検察官は,出発点は同じなのに,それがあたかも今回の桑田さんに対して官製談合防止法違反が成立して,量刑も,懲役刑が相当であるようなところに結びつけているわけで,それであれば,その理由が必要なはずです。なぜ出発点が同じなのに違う結論になるのか。それが全然示されていないではないかということが,明白にわかるような内容の補充意見書を楠教授は書いてくれたわけです。


さすがに,これに対して検察官は同意しないだろうと私は思っていたわけです。これに同意してしまったらおしまいだよと,これは完全に自己否定になってしまうではないかというような補充意見書の内容ですから。ところが,またしても検察官の意見は同意でした。しかも,今日の公判でご覧になったように,検察官は,弁論もなにも,意見を言わないのです。完全黙秘です。これは一体どういうことなのかと。検察官として控訴審における立証義務をまったく尽くしていない。もう主張・反論の放棄に近い,というふうに私は思いました。結局,反論ができないからそうなってしまう,としか考えられないのです。


今日,補充意見書の同意と同時に,検察官が,その説明として出してきたのが,楠意見書は独自の見解だと言うのですけれども,それも一体なにが独自なのかということです。楠教授の見解が独自なのだったら,独自でない考え方がどこにあるのだと。しかも,判例実務に反するとも言うのですけれども,その判例というのが,検察官がすでに出していた,4つの下級審での判決のことでした。


弁護人側でこれらの判決を精査しましたが,まったく関係がありません。今回の事件で問題になっている,お付き合い入札とか,特定業者への指導・助言というのは,競争が実質的にない状態で,競争の外形を取り繕うような行為のことなのです。しかし,そのような行為は,結構いろいろなところで行われていて,刑事事件で取り上げられたことは聞いたことがないのです。それを刑事事件にした例があれば出してみろと言いたかったのですけれども,幸いなことに,検察官は,判例実務に反する,という主張のなかで,もう2ヶ月ほどまえに全国の事例を検索した結果,検察官が出した4つがせいぜいで,ほかに類似の事案はないということを明らかにしてくれました。逆に,楠教授が言っている,本件のような行為はおよそ刑事事件として取り上げられるべき事件ではないということが,図らずも,検察官の主張・対応によって論証された,裏付けられたと考えられると思います。


これで今回の事件の控訴審というのは終結することになります。われわれは,本当は,桑田さんは無罪であると言いたかった。しかし,楠意見書のなかで,体制表の送付のところは,現行の,前年度のものであったとしても,完全に犯罪性を否定するのは困難だという見解があったからこそ,桑田さんも,第1の公訴事実については無罪主張を諦めた。その代わり,これは本来まったく刑事事件で取り上げられるべき事件ではなかったので,有罪であるとしても罰金刑の執行猶予相当だという主張に切り替えたわけです。それが意味するところは,検察官が刑事事件として取り上げ起訴したことが,まったく見当外れ,まったく的外れだ,ということです。だから,通常なかなかみられない,罰金刑の執行猶予というのは,検察官の起訴がおかしかったという意味で言っているわけです。


今日の弁論についての,私からの説明は以上です。


それから,今日,楠教授からのメッセージがメールで届いていて,あらためて意見書で楠教授が述べたことを踏まえて,最後にこういうことを言っています。

本件は公共調達の世界においても官製談合防止法の世界においても,極めて注目される重大な先例となるだろう。学術界のみならず司法界でも多くの関係者が今後論じ続けることとなろう。大阪高裁にはどうか,以上の問題を意識した上で,法の番人として適切な判断を下してもらいたい。


このように非常に重大な影響を生じさせる事件であること,もちろん桑田さん個人にとっても,あれだけの国循への貢献をした桑田さんが,犯罪者として裁かれる,これは社会的にあってはならないことなのですが,そういったことが,仮にこのまま放置されるとすると,公共調達の世界全体にも重大な影響が生じるということを,ぜひ皆さんにご理解いただきたいと思います。

 

(桑田)

私は,被告人の立場で,前回の記者会見でも申し上げたのですが,私自身の有罪無罪というよりも,われわれの業界,医療情報システムを扱う業界にとってありえない判決が出た,それを正してほしい,これを前例としてほしくないという思いが一番にあります。とくに,今回の弁論にもありましたけれども,最低価格落札方式の一般競争入札において,仕様を設定した際に,その仕様の条件が最低限のものでなければならない,という裁判所の判断はありえないことなのです。実務面からみてもありえないし,楠教授もそのようにおっしゃっている。そういった解釈に基づいて第一審の判決が出たということはまったく間違っているし,これが前例になってしまうと,情報システムだけでなく,世の中の公共調達のほとんどを占める最低価格落札方式による一般競争入札おいて,設定した仕様が「最低限」でなければならなくなる。これは非常におかしいことです。実際,最低限かどうかが基準ではなくて,合理的かどうかが基準であるはずです。公的機関は,お金を節約するために調達をしているわけではなくて,そのモノがほしいから,そのサービスが組織にとって必要だから調達をするわけです。ではなぜ必要なのかというと,その組織には目的があって,組織のなすべき目的に沿ったモノ・サービスを調達するため,それだけの話です。そこを顧みないと,「公的機関なのだから最低限のもの,最小限のものでいいじゃないか」と思いがちですが,実はそうではない。安かろう,悪かろうというものを入れることによって,かえって組織の目的が達成できず,ひいては国民全体のサービスの質を低下させるということが当然あるわけです。そういったところをわかっていただきたいのです。


今回の公判で発言の機会があれば言おうかと思っていたのですが,たとえば裁判所で使っている椅子も,最低価格落札方式の一般競争入札で調達しているはずです。でも,被告人席にある椅子と,裁判官の座っている椅子とではまったく違います。裁判官のあの立派な椅子は,本当に最低限のものですかと。最低限でいいのだったら,被告人席にある普通の椅子と同じでいいし,なんでしたら,背もたれすらない丸椅子だっていいじゃないですか,座れるのですから,という話です。そうではない,最低限ではなくて,そこにはやはり合理性が基準としてあるはずです。私は裁判官が立派な椅子に座っていてもいいと思います。それにはそれなりの社会的慣習あって,合理性が認められると私は思います。そういった単純なことが,裁判のなかではまったくもやもやしてしまって認められない。そうしておかしな判例ができる,そういったことは絶対に避けたいと思っているわけであります。


私からは以上です。

 

【主な質疑応答】

(記者)

今回は一部無罪の主張をするということで,裁判所の結論として出てくる最良の結果は,いくつかの事実については無罪,そして罰金刑の執行猶予ということになりますか。

 

郷原

そうです。控訴趣意書には公訴棄却の主張もしましたが,現時点では絞り込んで,罰金の執行猶予の方をメインに言っていった方が,この段階においては弁護人としては良いだろうということで,あえて弁論ではそれは言いませんでした。


しかし,意見招請手続きの欠缺というのは重大な問題なのです。その手続きをきちんとやっていれば,桑田さんはこんな疑われるようなことをする必要はなかったわけです。ところが,検察官は,原審の論告でそれについてまったくなにも言わないし,答弁書でも言わない。それについて避けている。これはよほどやましいことがあるからじゃないか,とわれわれは思うのですけれども,結局,検察官はなにも言わないので,こちらとしても,やましいことの中身が主張できないわけです。


ということで,公訴棄却論のところは控訴趣意書の段階では言ったのだけれども,現時点では根拠を明確にできないということで,罰金の執行猶予を中心に求めたわけです。

 

(記者)

 裁判官が原審の判断を変えるとすると,その根拠となるのはこの意見書でしょうか。

 

郷原

 今回の弁論は,控訴審で取り調べられた証拠に基づく弁論でして,その証拠というのは,楠意見書と情状関係の書面でした。ですので,そこに絞って弁論をしたのですけれども,もちろん控訴趣意書では,それ以外の事実誤認のところも徹底して詳細に主張しているので,事実誤認を理由にして原判決を覆すということも十分にあります。そこは弁論のなかでも付記しています。それと,法令解釈の誤りということであれば,楠意見書が参考にされるであろうと思います。「楠意見書によれば」という形になるかはともかくとして,そこは相当重大な問題だということが裁判所にも認識されたのではないかと思っています。それ以外にも,相当ひどい事実誤認がたくさんあるので,それも含めて裁判所が判断してくれることを期待しています。

 

(記者)

とすると,楠意見書を待つことなく,事実誤認で全部覆すということもありますか。

 

郷原

第2,第3に関しては十分ありえます。

 

(記者)

検察官の反論としては,意見書に関する反論はあったけれども,補充意見書に関する反論はなかったということですか。

 

郷原

いえ,意見書に関する反論もまったくないわけです。1月24日の後,再三にわたって検察官に求めてきたのですが,楠意見書に対する反論は,検察官にはできないのでしょう。できないから,反論しないのだと思います。


ところで,実際には検察官は言わなかったのですが,主観的要素の部分について,「特定の業者に有利にしようという目的があったのだから,一般的な公共調達論,官製談合防止法の適用ができないのだ」と検察官が主張することは想定していました。しかし,そこはまったく違うのです。少なくとも桑田さんには,特別D社を有利に取り扱いたい,D社の利益を図りたいという気持ちがあったわけではなくて,あくまで,国循の情報システムの発注においてD社が非常に評価できる優秀な業者であったから,それが評価され,その結果落札してくれればいいなと気持ちがあっただけで,それ以上のものはなにもないのです。ですから,特別,一般的な発注者の主観的な内容,意図,目的と区別するようなものはなにもない。そこは根拠にならないと思います。検察官は,そこについても今日はなにも言わなかったです。

 

(記者)

検察官が挙げてきた下級審の判例というのは,どういう流れのなかで出てきたのですか。

 

郷原

検察官の挙げた判例が本件とまったく違うというのは,それらが一般的な官製談合防止法違反の事例で,お付き合い入札というのも,指名セットなのです。指名競争入札で,受注意欲のない業者を集めてセットしてもらって,それで高値の入札をする特定の業者が有利になると。これはもう古典的な犯罪であって,それが犯罪になることについて何の問題もない。それから,特定の業者に対する指導・助言もそうです。検察官のいう判例は,企画競争などで指導・助言をして有利になるように教えてあげたということで犯罪になっているわけで,今回のように,実質的に競争がない,競争の外形を作った,実質,本当は1社応札なのだけれども,それに受注意思のない業者に加わってもらって競争の外形を作った,そういう事例が摘発されている事例はまったくない。


もちろん事実関係の問題として,そもそもお付き合い入札に桑田さんが関わったというところも争いがあって,桑田さんはずっと否定しているところです。しかし,かりに原審通りの事実認定をしたとしても,これは法令解釈上,犯罪は成立しない,あるいはぎりぎり成立する場合があったとしても,きわめて処罰価値が低い,こんなものは刑事事件として取り上げるべきものではない,というのが楠意見書の見解であって,それは4つしか判例が出てこなかった。その出てきたものも,本件とはぜんぜん事例が違うということで,かえって楠意見書の見解が裏付けられたと言えます。

 

(記者)

 一審の判決があって,実際,業界で萎縮したという声が上がったりするケースというのはあったのでしょうか。

 

(桑田)

 もちろん,それが公のニュースになるということはないと思うのですけれども,実際,非常に仕様書を書きにくくなったという声があったりとか,第三者性を担保したいがためにコンサル会社に仕様書を作らせるということが行われたりしています。国循でも,実際に,私が逮捕された後の仕様書については,コンサル会社が作っていました。

 

郷原

 それで,競争性が非常に重視されて,参入排除性というのは極力排除するということになっています。

 

(桑田)

 2社以上が入るような仕様書を作ってくれ,というのが,発注側のコンサル会社に対するオーダーになっています。私は,調達をやる事務担当ではなく,ちょっと立場が違っていまして,現場にいる責任者なのです。ですので,情報システムを現場に導入して,医療従事者あるいは患者さんのためになるものを入れたいのであって,競争性を高めることが私の目的ではないのです。むしろ,今は,そういう第三者的なコンサルが入って,競争性を重視した仕様書を書くことが目的となってしまって,現場のニーズとか,本当によりよい医療とか,効率的な医療をするための項目がどんどん削除されてしまうわけです。私ども現場が,これはほしいから是非入れたい,情報システムにこういう機能が備わってほしいということを要求したとしても,コンサルに,いやそれができる企業が数社しかありません,あるいは1社しかありませんと言われてしまうと,それは落とされてしまうわけです。

 

郷原

これは公共調達のコンプライアンスシステムに一番大きな影響があります。私も国交省の公正入札調査会議の委員をやっていますけれども,入札が公正なのかどうかということについて,裁判例というのは非常に重視されます。この事例がもし官製談合防止法違反で確定したということになると,裁判所がこういう判断を示してそれが確定したということを前提に,発注者が仕様を確定しなくてはいけないし,発注者としての対応を行わないと,コンプラインス違反になってしまうのです。公正入札調査会議というのはコンプライアンス違反に対して色々と問題を指摘する会議なので,そこでは非常に大きな影響を生じることにたぶんなると思います。

 

(記者)

 そうなった場合,現場で必要なものが調達できなくなってしまうということですか。

 

郷原

 はい,そういうことです。

 

(桑田)

もちろんそれが贅沢なものであってはならないと思うのです。本来,必要もないのに,過剰なものを要求している,そういうレベルの話ではないのです。必要だからこそ,あるいは組織としてやらなければいけないこと,国循の場合は,実際の診療と研究を同時に行って,診療で得られたデータを研究にも活かすとそういった理念があったわけですけれども,そのために必要な機能というのは一般病院のそれとは違うし,ましてやお役所のそれともまったく違うわけです。そこで必要最低限と言われてしまうと,そういった組織の目標とする取り組みというのが,そもそもできなくなる,そういった危惧があります。

 

(記者)

 今日の弁論を聞いていて,本来の筋というのは,公訴権の濫用という話なのかなと思ったのですけれども,この種の事案で起訴猶予相当あるいはそうなるべき事例はありますか。

 

郷原

 検察の独自捜査で,強制捜査に着手して,結果的にすべて起訴猶予で終わってしまったという事例を,私は知らないです。なぜかというと,検察は引き返す勇気を持つと言っていながら,引き返す勇気を持っていない,だから結局引き返さないからです。今回の件も,狙いがはずれたのだから,本当は引き返すべきだったのです。そうすればこんなことにはなっていないのです。桑田さんはいまだに国循の医療情報部長として活躍をして色んな功績を残していたはずです。それは検察が引き返さなかったからです。

 

以上

【告知(再掲)】国循サザン事件控訴審第2回公判

【告知(再掲)】国循サザン事件控訴審第2回公判
4月16日(火)10時30分-12時 大阪高裁 10階1001号法廷

 

控訴審では,公共調達法制の専門家である上智大学楠茂樹教授に意見書を書いていただき,公共調達関連法規の解釈を整理したうえで,改めて今回の事件にはどのように法律が適用されるべきか,そして,それに則れば私の事件がいかに異常であるかを当方は主張している。

検察官としては,数々の手続き不備を犯した国循の事務方を味方につけている手前,法規解釈の詳細に立ち入られたくないという気持ちになることはわかるが,検察自らの主張と異なる弁護側意見書について,どの部分がどのように違うのか,彼らたちの解釈の正当性を堂々と述べていただきたい,そのように私は思っていた。そうすれば,当方も的確に根拠をもってその反論ができるからである。

しかし,残念ながら検察は一切答えず。それでもって,裁判所も釈明権を行使しないとなると,当方はどのように反論すればいいのか。裁判所には,当方に反論を尽くさせてほしい,とただ願うだけであった。

この閉塞状況を打破すべく,当方は,楠教授に再度お願いして補充意見書を書いていただいた。目的は,検察の主張する意見と楠意見書の違いを明確にするため。それを本日裁判所に提出,証拠取り調べ請求をした。

ところが,それに対する検察の意見は「証拠には同意するが,信用性を争う」という。理由は,楠意見書は独自の見解にすぎず,従前の判例に乖離するものであると。

しかし,今の日本において,楠教授ほど公共調達の実務と法令に精通した専門家はいない。公的機関の調達委員を歴任し,数々の著書を持つ楠教授に向かって「独自の見解にすぎない」とはどの口がいうのか。それはまともに反論してからいうべきではないのか。総論において「原審の解釈のとおり」というだけで,各論ではまったく有効な反論ができない検察官が,その道の専門家に対して,「独自の解釈にすぎない」とは,けんかで「バーカバーカ」と言い捨てて去って行く子どもと同じレベルではないか。

また,「従前の判例実務と乖離する」との言い分にも,開いた口が塞がらない。検察官が例示した判決は,いわゆる「お付き合い入札」についての有罪判決例であるが,問題となった国循事件とは前提が大きく異なる。

これらの判例は,いずれも,事前に参加者が決められている「指名競争入札」である。「指名競争入札」では,全参加者と「握る(=示し合わす)」ことができれば,「お付き合い」により「競争を偽装する」という不正は成り立つ。競争が存在するという前提で指名業者が決まっているからである。指名業者間で談合してしまえば,その前提を崩すことになるから,公正な競争は阻害される。

しかし,問題となった国循の事件は,指名競争入札ではない。いくら特定の業者と「握って」お付き合い入札を偽装したとしても,他の業者の自由意志による参入を阻むことはできない。そのような状況で,1社を除いて「お付き合い(=落札意思がない)」で参加しているだけなら,そもそも競争が存在しないことと等価である。

私には「形式的に競争を装う」理由が全くないことはすでに何度も述べているところであるが,もしそうしたからといって,そもそも「競争が存在しない」のであるから,公正を害することもできない。

だから,検察官がいくら「指名競争入札」の判例を掲げて「ほら,ここでは被告人と同じことをした人が有罪になっているよ」と言ったところで,犯罪の構成要件たる「公正を害する」程度が違いすぎるので,比較の意味がないのである。

検察官がこんな稚拙な主張をするのは,根本的に入札制度の実務を理解していないか,他に反論する根拠がまったく見つからなかったからであろう。そしてそこに深入りしたくない裁判所という存在。鬼に金棒ではないか。

きちんと法によって裁いてくれ。説得力のある判決を書いてくれ。もうそれしか思わない。そんなことすら保証されないのが,今の刑事司法である。

最低価格落札方式の入札では,発注者は「必要最低限」のものしか求めてはいけないのか

「国循サザン事件」の第一審判決(以下,原判決)における,最も深刻な過ちは,タイトルに示した命題である。

原判決では,以下のように言っている。

 特定の業者にとって当該入札を有利にし、又は、特定の業者にとって当該入札を不利にする目的をもって、現にそのような効果を生じさせ得る仕様書の条項が作成されたのであれば、当該条項が調達の目的達成に不可欠であるという事情のない限り、入札等が公正に行われていることに対し、客観的に疑問を抱かせる行為ないしその公正に正当でない影響を与える行為であるというべきである。(原判決17ページ)

 これは,検察側の原審論告において,検察官が行った

 最低価格落札方式で実施する以上、設定される条件は必要最小限でなければならず、それを超える品質を求める場合は、参加要件自体は最低限のものとした上で、プレゼン方式で評価していけばよいのである。

 との主張を,そのまま認めたものである。

ところが,これは,価格に見合う価値(Value for Money)を確保すべき財務会計法令上の原則に反するものであるし,公共調達の実務ともまったく異なっている。該当する法令もなにもなく,過去においてこのような解釈が示されたことは一度もない。公共機関の調達は,税金を資源とする以上,無駄な出費を抑えなければならないのは確かであるが,「最低限」である必要はない。設定した条件が,調達目的と整合するか,合理的であるかが,当該条件の妥当性を判断する基準である。

世の中の公共調達の大半は最低価格落札方式による入札で実施される。検察官および裁判所は,これらがすべて「必要最低限」のものしか要求してはならない,というのである。

これが示すことは,公共機関は,紙,鉛筆,パソコン,トイレットペーパー,机,椅子に至るまで「必要最低限」でなければならないというのである。こうなると事務用品はすべて100円均一クオリティでなければならないだろう。机はもちろん袖机は不要で,椅子に至っては肘掛けはもちろん背もたれも不要かもしれない(だって背もたれのない椅子も世の中にはあるんですから!)。

さて,検察事務総長様や裁判長長官様の机と椅子は必要最低限だろうか? 部屋に高級なソファなどないのであろうか? ーーこのように考えれば,いかにこの判決が欺瞞に満ちたものかがわかるだろう。

もちろん,検察事務総長様や裁判長長官様の机と椅子は,ある程度,職位に応じた高級なものであってもかまわないだろう。それが適法と見なされるのは,そこに「合理性」があるからなのであって,「必要最低限」であるからではないはずである。

経済性の大原則を無視し,実務を無視した原判決は,当然に棄却されなければならない。

 

 

第2回公判にむけて

第2回公判は,4月16日(火)10時30分-12時,大阪高裁10階1001号法廷にて開かれます。

ここでは,第1回公判から今に至るまでの,当方および検察官ならびに裁判所とのやりとりについて概略を示します。

まず,当方が控訴審の主張において,最も重きを置く上智大学・楠茂樹教授の意見書(以下,楠意見書)について,検察官は「同意するが,記載内容の一部について信用性を争う」としました。

そこで,当方から「信用性を争う」とはどういう意味かと釈明を求めたところ,検察官は「第1回公判で述べたとおり」と回答しました。検察官は,第1回公判で「意見の相違がある」と言っていましたので,結局,「検察官の主張と異なるもので,検察官においてそのように解釈していない」という趣旨だろうと思います。

しかし,主張を異にするのであれば,楠意見書のどの部分について,どのように解釈し主張するのかを検察官に明らかにしてもらわなければ,当方としても反論のしようがありません。

そこで,今度は裁判所に対して,訴訟指揮権に基づき,楠意見書について「主張が異なる」と述べている趣旨を具体化し,反論の内容を明確にすることを検察官に対して釈明を求めるよう上申をしました。

ところが,上申をするや否や,裁判所は,即座に「そのようなことはしない」と回答しました。

控訴審での重要争点をスルーしようとする検察官もたいがいですが,裁判所までもが検察官の主張を明らかにすることなく審議を進めようとする態度を取るなど,なかなか信じられるものではありませんでした。

しかしこのようなこと,つまり,裁判所が,弁護側の「面倒な主張」には触れないで放置したまま判決を出すこと,はよくあることのようです。これでは,検察側の主張が明らかにならないまま,弁護側は必要な反論を尽くせない状態です。これではまったく公平な裁判とはいえません。

被告人として刑事事件の当事者となり数年も経つと,腐った刑事司法の運用を見ても大抵驚かなくなっているものですが,さすがに今回の件は憤懣やるかたないと感じます。

でも,精一杯,がんばってきます!

 

 

控訴審第1回公判期日後の記者会見内容(2019年1月24日)

【冒頭説明】

郷原

主任弁護人の郷原です。今日,桑田さんの控訴審の第1回の公判が開かれました。控訴審ということで,公判の場では,なにが起きているかよくわからないと思いますので,こういう形でご説明した方がよいと思った次第です。最初に桑田さんの方から一言お話をいただきたいと思います。

 

続きを読む

控訴審第1回公判期日が終わりました

本日は,弁護側・検察側の双方の主張および証拠類の確認が行われました。

検察側の最終意見提出が期日の一週間前と直前であったこと,そしてその内容に不明な点が多々あったことから,当方は,本日,口頭にて求釈明を行ったところ,検察側は本日回答できない,しかも,検察官が交代するので,回答するかどうかも含めて検討の時間が必要との意見を表明しましたので,裁判長は,検察官からの回答期日を3月15日,次回期日を4/16(火)10:30と定め,今回公判は閉廷となりました。

なお,次回第2回公判期日にて結審,第3回公判にて判決となる予定です。

公判終了後,15時ごろより,裁判所内の記者クラブにて約30分間の記者会見を行いました。記者会見の様子は,また後日,本ブログにアップいたします。

傍聴にお越しいただいた方々,また,ブログやFBで応援いただいた方々に感謝申し上げます。引き続き応援いただけましたら幸いです。

なにとぞよろしくお願いいたします。(桑田成規)